平等院店の入り口に、ティンガティンガアートと呼ばれる、1960年ごろタンザニアの首都ダルエスサラーム郊外で誕生した絵画スタイルで描かれた作品があります。
描いたのはYusuph Michael Lehemu(ユスフ・マイケル・レヘム)。
タンザニア連合共和国マサシ州ンブユニ村に生まれ、ティンガティンガアート創始者であり、叔父でもあるエドワード・S・ティンガティンガ氏の教えを継ぐアーティスト。
「Keep Nature, Life Simple」と題されたその絵は、
平等院店から見た宇治川や当店に残る茶摘みの絵ハガキなどに加え、
さまざまなタンザニアの自然の借景が交わり合う、アフリカンで日本茶で宇治でもあるハッピーな作品です。
もともとは全く違うアートを設置する予定をしていました。
それも素晴らしい作品ではあったものの、なぜここにその作品があるのか、必然性をどうしても説明しきれずに悩んでいたところに、
レヘムさんとの出会いの機会をいただきました。
日本のお茶は、日本人が日本人の味覚や価値観の中で磨きあげ、現在に至ります。
その繊細な香味や色彩、淹れ方の所作は、まさに日本人の審美性と日本の自然からでしか生まれないな、惚れ惚れとしてしまいます。
茶のある生活が物質的であることだけでなく、
まるで自分たちのアイデンティティを思い起こす存在であるような。
そんな存在であるお茶だからこそ、日本人である私たちの目”以外”から見える日本茶は、どのように見えるかに強く惹かれていました。
そこは緑が緑に見えない世界。
飲み物が飲み物ではない世界。かもしれない。
初めてティンガティンガアートを見た時、そんな色とりどりの日本茶の世界があるように見えました。
宇治川に泳ぐカバ、大吉山に佇むフラミンゴ、アフリカンミュージックにノリノリになりながら摘む新茶。
日本茶が日本茶である世界の向こう側です。
新しくなった平等院店の入り口には、そんなある象徴が必要になり、
「Keep Nature, Life Simple」と題された作品がそこに収まりました。
宇治からすればほとんど地球の反対側からやってきた、聞いたこともないリズムは、私たちが知るよしのなかった日本茶の可能性を教えてくれます。
同時に、これまで脈々と繋いできてくれた先達の努力とお客さまに、心から敬意を表さずはいられません。
絶やしてしまえば、ここにこの絵はかからなかったのだから。
ティンガティンガアートについて
1960年ごろ、タンザニアの首都ダルエスサラーム郊外で誕生した絵画スタイル。建築現場で余ったベニヤ板やペンキを使って動物の絵を描いたのが始まりといわれている。
その絵の特徴は、愛と平和、そしてハッピーであること。また現代では、気候変動の影響を受けやすい動物たちに心を寄せるきっかけをつくる役割も担っている。
創始者であるエドワード・S・ティンガティンガ(1937-1972)の名をとって「ティンガティンガアート」と呼ばれている。
Yusuph Michael Lehemu
ユスフ・マイケル・レヘム
1973年、タンザニア連合共和国マサシ州ンブユニ村生まれ。神戸市在住。
ティンガティンガアート創始者であり、叔父でもあるエドワード・S・ティンガティンガ氏の教えを継ぎ、13歳ごろからペインターとしての活動を始める。
スイス・ヘルベタズ社のコンペでの優勝を皮切りに、国外でも活動を開始。
2004年に在日本タンザニア大使館の招聘により初来日、2005年には「愛・地球博」にも出展した。
2006年、結婚を機に日本を拠点とした活動を開始。各地のイベント出展や個展に留まらず、絵画指導やワークショップをとおして、タンザニアのアートや文化を広める活動を展開している。