皆様、こんにちは。オンラインスタッフのケコです。
ある日のお客様との楽しい時間。
お客様がぽつりとおっしゃいました。
「玉露って、いいお茶なんだと思うけれど……
正直、他のお茶との違いがあまりよくわからなくて。」
「熱いお湯で淹れて飲んでみたけど、ちょっとまろやかな感じがするくらいで。
すごく上品だけど、びっくりするほどではなくて……」
その言葉に、私はにっこりして、こうお伝えしました。
「よければ、今度は私が淹れてみてもいいですか?」
玉露は、“ただ良い茶葉”であるだけでは足りないお茶です。
“どう淹れるか”で味がまったく変わる、そんな繊細なお茶なのです。
お客様の前で、私はゆっくりと準備を始めました。
茶葉を丁寧に測り、急須に入れる
お湯を湯冷ましに移し、さらに湯呑みに移す
しばらく待ち、湯呑みの外側を指先でそっと触れる
「これは何をしてるんですか?」と、お客様。
「玉露を楽しむための準備です」と、私は笑って答えました。
お湯がようやく、指で持っても熱さを感じないほどのぬるさ(約60℃)になったころ。
そのお湯を、急須へと注ぎ入れます。
そして、じっと待つ。
「お湯を入れたら、すぐに注がないんですね?」
「はい。玉露は、急がず、じっくりと。
茶葉の旨味がじわじわと広がるのを、静かに待ちます。」
1分以上待ってから、私はそっと回し注ぎをしながら湯呑みに注ぎます。
その一杯は、ほんの少し。
けれど、透明感のある“緑の雫”。
「どうぞ、口の中でゆっくり味わってみてください。」
お客様が一口、含んだ瞬間。
「えっ?……これ、お茶? お出汁……みたい……?」
しばらく言葉が出ず、目を見開かれていたのがとても印象的でした。
玉露は、ただの飲みものではなく、“体験するお茶”です。
驚くほど低い温度で淹れられ、
その味わいは、だしのような深い旨味。
香りは控えめで、渋みはほとんどなく、
後味にやさしい余韻が静かに残る。
私たちが日常的に飲む煎茶やほうじ茶とは、まるで別の世界。
それはまさに、日本の“静けさの贅沢”を体現する一杯。
お茶に“驚き”や“余白”を感じたことがない方にこそ、
ぜひ一度、玉露という体験に出会っていただきたいと思っています。
「これは本当に、お茶なんですね……」
お客様がそうつぶやいたとき、
私の心の中にも、またひとつ静かな余韻が生まれました。
